現在、新型コロナウィルス(COVIC-19)感染パンデミックの第三波の真っただ中にいます。このパンデミックの救世主として期待されているワクチン接種がいよいよもうすぐ始まろうとしています。今回のワクチンの開発の速さにはびっくりしました。普通は十数年かかっての商品化になりますが、わずか一年余りというスピードです。これにはマイナーウィルスであったコロナウィルスに対して、20年前の、同じコロナウィルス感染症であるSARS騒動さらにMERS騒動からのコロナウィルスに対する地道な研究継続に担うところが大きいと思われます。この二月から始まろうとしているファイザー社のワクチンは、メッセンジャーリボ核酸(mRNA)ワクチン、次に予定されているアストロゼネカ社のワクチンはベクターワクチンと呼ばれています。これらのワクチンを理解するには、ウィルスの構造や核酸のこと、免疫のしくみ、ワクチンの種類などを知る必要があります。
生体の細胞内には遺伝情報を内在している核があり、その核の中には遺伝子の成分である核酸(nucleic acid)が入っています。核酸は五炭糖(炭素原子五個からなる糖、リボースと呼びます)、リン酸および塩基から成っています。五炭糖の一つの炭素原子に付いている水酸基(-OH)が水素基(-H)に置換された核酸をデオキシリボ核酸(DNA:酸素原子が取れた五炭糖の核酸という意味?)、一方(-OH)のままのものをリボ核酸(RNA)と言います。細胞が増える(細胞分裂)とき、DNAからコピーされたもので、タンパク質に翻訳され得る遺伝情報を持った、長さの短い核酸をメッセンジャーRNA(mRNA)と言います。mRNAは細胞質内でその遺伝情報に従いタンパク質を合成します。
さて、ウィルスは他の生体細胞(細胞質、核を含めた諸器官、それを覆う細胞膜から成る)と違い核酸単独から成る生物(?)です。そのウィルス核酸もDNAまたはRNAの単一核酸で、DNAウィルス、RNAウィルスと呼ばれています。ウィルス核酸(ウィルスゲノム)はカプシドというタンパク質の殻で覆われています。さらにその外側をエンベロープと呼ばれるタンパク質で覆われるものと、エンベロープがないものが存在します。新型コロナウィルスはRNAウィルスでエンベロープを有しており、さらにそのエンベロープから出た突起(スパイク)が特徴です。この姿はたびたび報道写真に登場していますのでよくご存知と思います。今回のワクチンであるmRNAワクチンは、このウィルスのスパイクからmRNAを作成し、それを脂質ナノ粒子で包んだもので、ワクチン接種は筋肉内に注射します。注射された新型コロナウィルスのmRNAは筋肉細胞内に入り込み、その細胞質内で、ワクチンを受けた人が持っている機能を使って新型コロナウィルスのスパイクと同じタンパク質を合成します。一方、新型コロナウィルスのmRNAは、効力を果たす時間が短いので害は残らないと言われています。合成されたタンパク質は新型コロナウィルス由来なのでワクチン接種を受けた人には異物と認識され、その人の免疫機能(抗体作成)が活性化されます。その後、ワクチン接種を受けた人が新型コロナウィルスにさらされるとき、すでに獲得した免疫機能でそのウィルスを排除することができ、感染予防となります。一方、ベクターワクチンは、弱毒化した別のウィルスの核酸を新型コロナウィルスの核酸と入れ替え、これを投与することで新型コロナウィルスに対する免疫を獲得するものです。
これほど速く新型コロナウィルスに対するワクチンが完成し得たのは、先に述べたように、20年前に流行したコロナウィルス感染症(SARS,MERS)以来、地道に基礎研究を継続していた研究者の方々のおかげと、さらにウィルスゲノムを使ったワクチンの開発(癌ワクチンの研究など)や製薬会社に対する国の莫大な資金援助(おそらく政治的経済的にウィンウィン)、治験に参加された大多数のボランティアの方々のおかげであり、今回のパンデミックの終息が成功したら、これらに対し後世で検証されるでしょう。日本でも自前のワクチンが早くできることを願っています。日頃から予算面などで基礎研究を大事にすることが、こういう一大事に役立つ気がします。
次回は、免疫のしくみを勉強し、わかりやすく述べてみたいと思います。
最近、コロナ騒ぎで1年半以上旅行に行けません。掲載する写真も種が尽きつつあります。2018年正月にスキーで行ったスイス・アルプスの未掲載写真を掲載しました。(1)眼下に望む、雪に覆われた世界的リゾート地、Zermatt、(2)マッターホルンに連なる山々です。